【初代の時代】地域の健康相談所として昭和28年に開業
西沢薬局は昭和28年(1953年)に、現在の店長にとっては祖母にあたる初代の「いと」が今と同じ場所に開業したのが始まりです。祖父の満雄は、ペニシリンの研究所の所長をしていました。しかし、時代は抗生物質の開発競争の真っ最中。祖父は閉鎖に追い込まれた研究所の職員の就職先のために奔走し、無理が祟った結果、身体を壊してしまいます。戦後間もないこの頃は社会保障などの制度もなく、働かないと食べていけません。そこで薬剤師の資格を持っていた祖母は、昼間はアルバイトとして働き、夜は薬局で研修。子ども二人を抱え、祖父のサポートをしながらようやく開業することができました。
この辺りの商店街は活気に溢れ、賑やかな時代。薬局の開業は多くの地元の方に喜ばれました。ちょっとした悩みでも相談に訪れる場所として、お米屋、乾物屋、八百屋と同じく「薬屋さん」と呼ばれていたのを思い出します。現在医薬品の販売は薬剤師、もしくは登録販売者じゃないと行えません。しかし、当時は規制が緩く、薬局は「地域の相談所」という立ち位置でした。営業時間は朝の8時から夜の9時ぐらいまで。土日も働き、休みは月に二回ほど。とにかく忙しかったのは確かでしたが、人と人との交流が盛んで元気いっぱいの薬局でした。
【二代目の時代】薬の乱売時代、そして院外処方箋への転換
そして、西沢薬局は二代目の母 啓子の時代を迎えます。しかし、当初は薬局を継ぐ気はありませんでした。本人曰く、小学校の頃から薬局経営の大変さを見て、サラリーマンのような休みのある生活に憧れて育ったこともあります。それでも無事薬学部を卒業し、とある病院で6年間勤務を続けるなかで薬剤師としてのやりがいに目覚めました。そこで出会った人と結婚し、子供に恵まれたこともあり、子育てと仕事を両立させるために昭和53年頃に西沢薬局へと戻ります。
そんな時、全国的に薬局の経営を揺るがす問題が発生します。薬の乱売時代です。大阪や池袋周辺でチェーンの薬店が非常に安い値段で一般薬を売るというものでした。扱っている商品が、風邪薬や栄養剤だったため個人薬局の売り上げが一気に下落。同じお薬なら安い方がお客様にとってお得に決まっています。しかし、私たちはそちらの方向には向かいませんでした。
そこで、昭和45年に研修会が充実している日本薬局協励会の商品を提案する方針に転換します。しっかりとお客様の相談に対応し、お悩みや症状に合わせて確かな品質をもった医薬品を提案することが必要だと思ったからです。そうやって相談薬局としての機能を維持してきました。
その後もう一つの転機が訪れます。処方せん応需の業務が増えたことです。当時は、まだまだ院外に処方せんを出すことは一般的ではありませんでした。月に数えられる程度の枚数です。ところが、精神科のドクターが薬局近くに開業することとなり、一気に処方せんの枚数が増えました。急いで薬剤師を雇い、体制を整えることで、経営面の安定に繋げていきます。
そのような状況で二代目を継いだ母は、メリハリをつけて働こうとスタッフの働き方を変えました。日曜祝日は休み、土曜日も営業時間を夕方6時に短縮。また、コンビニエンスストアや大手のドラッグストアが台頭するなかで、「うちも店内を明るくしよう!」と、照明をリニューアル。若い世代の患者さんにも気軽にお越しいただき、働きやすい環境を整備することで次の世代に向けてバトンタッチする準備を着々と進めてきました。
【三代目の時代】地域のかかりつけ薬局としての原点回帰
現在の店長は三代目の西沢 哲が勤めています。より幅広い分野で患者さんのお悩みに対応したいという思いからOTC部門の強化に乗り出しています。そこには、調剤部門が忙しくなってしまい、OTCの販売・相談に注力出来なかった長年のジレンマがありました。相談に来ていただいた方の悩みを受け止め、自分なりの判断のもと、医薬品をお渡ししたいという思い。そうして、お悩みが解決し、喜びの声をいただくやりがいは他の業務では味わえません。
超高齢化社会と少子化が進む日本において、薬局の立場はより重要性を増しています。日本は国民皆保険があり、全国どこでも好きな病院に受診できる環境です。しかし、軽い病気でも病院へ行く傾向があります。結果として、初診料がかさみ、院内で何時間も待たなければいけないなどの不都合な状況が生まれています。そこで薬局の出番です。症状を伺って受診の判断を助言したり、健康相談に対応する場所としての役割が増しています。かつてどの薬局でも行っていたように、ちょっとした風邪などの病気が薬局で解決できれば病院に行く必要がないわけです。
また、今後の医療は抗がん剤や終末期の患者さんを地域で看取る緩和ケアも重要になります。独居の老人が増えるなか、介護相談を行ったり、食事や栄養摂取に関するサポートも必要になってくると思います。そのようなお悩みにより対応するため、西沢薬局は厚生労働省から「健康サポート薬局」の認定を受けました。これは、かかりつけの機能を持ち、さらに地域の方の健康相談に幅広く対応できる薬局に認められるものです。
もちろんすべてのお悩みが薬局でまかなえるわけではありません。しかし、まず薬局が病気や健康上のお困りの事についてファーストアクセス出来る場所として認知されれば、「どこの病院に行ったら良いのか?」「服用している薬との飲み合わせは大丈夫か?」などより患者さんと密接なお話ができます。
これからも西沢薬局の挑戦は続きます。時代が変わっても、大事なことは祖母、母より受け継いできた地域密着の思い。そこに新しい知識や情報を柔軟に取り入れることで、より地域の方々の健康に貢献したいと願っております。